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INTERVIEWインタビュー

人を想い暮らしを見つめる新しい医療のかたち

2021.03.20

医師 |

會田 誠

取材日:2021.02.07

Photo:牧 寛之

ニセコ町にお住まいの医師、會田誠(あいた まこと)さんは、普段は洞爺湖町の洞爺温泉病院と帯広市の十勝ヘルスケアクリニックに勤めながら、週末は蘭越町の昆布温泉病院の診療支援もされている。2007年に医師になってからは、主に循環器科で医療業務に従事し、2016年にニセコ町に移住した。現在地方の医療において特に注目されている、予防医療のしくみづくりに尽力されている。新しい医療のかたちを創造しようとする會田さんの挑戦について話をうかがった。

會田さんは千葉県の出身で、子供の頃は父の転勤によりさまざまな場所で暮らした。北海道に初めて来たのは中学3年生の頃で、高校も北海道内の学校に進学した。その後大学では物理を学んだ。人の思い込みや感情に左右されない純粋な科学である数学や物理に興味を抱いていたという。当初は、理論的な研究活動ができ、卒業後の経済的なメリットも感じられる医学部への進学を考えていた。周囲の人々からのアドバイスもあり、純粋に好きな学問を学ぼうと考え、最終的には物理を学ぶことを決めた。しかし、学んだ物理の知識が人の役に立っていると思える場面になかなか出会えなかった。人とのコミュニケーションが少ない「物理学」という内向きの要素の強い世界で生きていくことに、明るい未来を感じられなくなったのだという。

自分自身を解き放つ

大学で物理学を学ぶ中で、その思考方法や生き方に対する違和感を感じていた。この頃から、人との繋がりに意識を向けた「外向きの世界観」を好むことに無意識レベルで気付いていたのかもしれない、と會田さんは語る。自分の生きる道を問い直し、新しい世界を見たいと思い、大学を卒業後は海外を転々とした。小さな頃から、家族との考え方の相違や、それに対する疑問を感じ続けていたことも一つのきっかけだった。海外での生活の中で、自分の思ったことを素直に表現し自由に生きる人たちと出会った。彼らから多くの刺激をもらい、自分自身を解き放つことができた。

海外生活を続ける中、看護師をしていた母からの勧めで再度大学の医学部で医学を学ぶことを決めた。地方で医療に従事する医者を育成する大学に入学した。大学を卒業後は、北海道内のさまざまな地域のまちを見たうえで、ニセコ町に住むことを決めた。交通の便も良く、除雪サービスもしっかりしている。そして「ニセコ町って変な人が多いじゃないですか(笑)」とのこと。その言葉の背景には、ここニセコには多様な人がいて、お互いの価値観を受け入れる土壌があるために際立った個性がみられるのだと。そう話す會田さんは、なんだか嬉しそうだ。ニセコ町内の移住者との交流も積極的に参加している。

医療現場での苦悩と課題

予防医療に興味を持った最初のきっかけは、循環器科での医療経験だった。循環器科では急患で心筋梗塞の患者が運ばれてくることが多い。心筋梗塞を引き起こすほど心臓の血管で動脈硬化が進行している患者は、心臓以外の全身の血管も同じくらいボロボロになっている。ある程度悪くなった状態でしか治療を施すことができず、場当たり的な対応しかできないことにもどかしさを感じていた。「心筋梗塞は動脈硬化が進んだ末に生じるものであり、根本的な部分を改善する必要性がある」と感じたという。度重なる急患は担当する医師にも負担がかかり、高齢の医師は身体に堪える。人の生死に大きく関わることが多い診療科であるにもかかわらず、給料は他の科と変わらず仕事内容は非常に厳しい。若い世代で循環器科の医師を希望する人が少なってきたという状況も頷ける。循環器科をはじめとした、命をあずかるような診療科での医療体制の高齢化は進んできている。このまま事後対応だけの医療を続けると、医療体制の維持は更に厳しくなる、と警報を鳴らす。

「予防医療」の世界へ

それ以来、患者と医者双方に良い影響をもたらす「予防医療」について考えるようになった。心筋梗塞で運ばれてきた人の血管を拡げるカテーテル治療では、動脈硬化の進行は改善できない、つまり、悪化後の処理では根本的な原因を改善することには繋がらない。そして根本的な原因の改善を実現させない限り、医療現場の負担を軽減する事はできない。「医療ではない分野に介入していかなければならない」と考えるようになった。本来であれば、動脈硬化が進む前の未病の人から介入する必要がある。しかし未病の人は病院には来ないため、医療の枠では介入することが難しい。そうした現状から、医療ではない分野、例えば、サークル活動や地域行事などを通じて未病の人と接点を持ち、そこを通じて健康増進やからだづくりのサポートをしていくことが有効だと考えるようになった。 

さまざまな「処方」とその土壌づくり

患者が元気になるのであれば、薬ではなくても、例えばヨガ教室での体作りや料理教室、孫とのLINE電話や近所に住む人との会話、ペットと過ごす時間など、さまざまな選択肢がある。「それを全て含めて広義の「処方」として受け入れられるような土壌づくりをしたい」。病院に依存するのではなく、病院で問題がないと診断された際に、健康に生きるための多種多様なヒントや選択肢があるということ、そしてその全体像がまち全体で理解される雰囲気づくりが重要だ。しかしその価値に共感してくれる人は限定的で、もっと多くの人に予防医療やそのための土壌づくりの重要性を認識してもらう必要があると感じている。地域のまちづくりから医療を実現させたい、そして健康的なまちづくりが理想の予防医療なのだと會田さんは語る。

人を想い暮らしを見つめる

「まちやそこを取り巻く環境を含めて一つの家族と思えるようなまちづくりができたら」そう話す會田さんの言葉は温かく、人々の健康や生活、暮らしを見つめていることがひしひしと伝わってくる。「共に生活する人たちのことを家族だと思って接することができたら、争い事や揉め事もきっとなくなるのではないか」。様々な視点から医療を捉え続け、まちを家族として考える、とても深い言葉として受け止めた取材だった。

プロフィール

Photo:牧 寛之

医師

會田 誠

千葉県出身。2016年にニセコ町に移住。洞爺湖町の洞爺温泉病院と帯広市の十勝ヘルスケアクリニックに勤めながら、週末は蘭越町の昆布温泉病院の診療支援を行っている。現在地方の医療において特に注目されている、予防医療のしくみづくりに尽力している。

文責:佐々木 綾香

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