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INTERVIEWインタビュー

ニセコに根付く農家のくらし

2021.04.19

久保農園 |

久保 登士明

取材日:2021.01.29

Photo:牧 寛之

ニセコ町の主幹産業の一つである「農業」。福井地区で農家として生きる久保登士明(くぼ としあき)さんは、広大な土地でお米や大豆、小麦の生産を行っている。ニセコ町に根を張り、さまざまな取り組みを行いながらも、田舎での暮らしを穏やかに営む久保さんのお話を伺った。

ちゃきちゃきのニセコっ子

久保さんは、生まれも育ちもニセコという生粋のニセコ町民。子どもの頃は地元でよくスキーを楽しんでいたそうだ。札幌の大学に進学し法学を学んだが、田舎の生活が好きだったため、いずれ地元に戻ろうと考えていた。大学卒業後はニセコ町の観光協会に就職し、そこで5年間まちの観光振興の仕事に携わった。当時は冬よりも夏の方が観光のメインの季節だったという。

農家の道へ

観光協会を退職し農家になってからおおよそ10年が経った。もともと久保さんの両親が農業を営んでいたため、自分自身もいずれ実家の農業を継ぐのだろうかと日々思いを巡らせてはいたものの、実際に継いだことに自分自身でも驚いているそうだ。両親から経営を任されるようになってから6年余りが経過した。

久保さんが農業を営む福井地区では、10件ほどの農家がある。町外からの移住者が多い地域でもある。久保さんは約30ヘクタールもの広大な農地で主に米や大豆、小麦などをつくっている。農業従事者が減少しているため、農地が集積・集約され、大規模な機械を使った農業が行われるようになっている。それでもニセコ町は道内の他の地域と比べて後継者が多くいる方なのだそうだ。

カモと一緒につくるお米

久保さんは自身の農業の中でさまざまな取り組みを行っている。その代表ともいえるのが、合鴨農法を利用した米の生産だ。合鴨農法とは、田植えが終わった田んぼに鴨のヒナを放し、雑草や病害虫を食べてもらうとともに、鴨のフンを稲の肥料にするという農法だ。稲から穂が出たら、稲を食べないようにヒナたちを田んぼから出してあげる。久保さんが合鴨農法によって生産した米は、自然環境に配慮された安全で良質な北海道の農産物であることを証明する、北海道が定めた「YES! clean」認証を受けている。この合鴨農法を利用した稲作は久保さんの両親が始めた。現在町による区画整備事業が行われているため、合鴨農法での生産は一時休止しているが、準備が整い次第再開する予定だ。この取り組みのほかに、人口が減っていく中でも少人数で作業ができるよう、ドローンを活用したスマート農業も試しているそうだ。

農業を通じた人との繋がり

久保さんは、生産した農産物をJAようていやニセコビュープラザ直売会、町内の飲食店などに卸している。ビュープラザ直売会では、販売されている農産物等の生産者の顔と名前が分かるようになっている。そこで自身が生産した農産物を買ってくれたお客さんが、後からまた直接購入したいと連絡をくれることもあるそうだ。「そういう風に言ってもらえると、農業をやっていて良かったなと思う」と優しく微笑む久保さん。消費者の声が日々の仕事のやりがいに繋がっているようだ。

ニセコでのくらし

冬のニセコ町の魅力といえば、やはりスキーやスノーボードを楽しめる環境だが、夏の時期の魅力について尋ねると「やっぱり景観かなぁ」と久保さん。山や森に囲まれた自然の豊かさ、畑や田んぼが広がる雄大な風景は、夏のニセコ町の象徴ともいえる。農産物を生産するだけではなく、風景を生み出すのも農家のしごとの一つなのだ。

ニセコの暮らしで大変なことを尋ねてみると、一番大変なのはやはり除雪。それでも雪が降る風景を眺めていると、「きれいだなぁ」と思うそうだ。長年ニセコに住んでいながらもそのように思えることに、久保さんの素朴で穏やかな人柄がうかがえた。食べ物の話題になり、ニセコの人が昔から食べている伝統食などがあるかどうか尋ねてみると、どうやら「ニセコ鍋」なるものがあるらしい。ニセコ鍋の特徴は、鶏のつくねとタケノコやワラビなどの山菜類が入っていることで、久保家では醤油味のスープにすることが多いそうだ。「つくねの脂がスープに染み出て美味しい」とのこと。とあるお肉屋で「ニセコ鍋をつくる」というと、ニセコ鍋用の肉を用意してくれるそうだ。普段はジンギスカンもよく食べるようで、これまでニセコ町内で行われていた冬の雪中焼肉が思い出深いようだ。「またやれたらいいんだけどなぁ」と懐かしむ。

ニセコ生まれニセコ育ちで農業を営む久保さんは、まちを長きにわたって支え続けてきた人の一人。そんな久保さんのお話からは、とてもリアリティを持ってニセコ町での暮らしを感じ取ることができた。まちに長年根付き生活をしてきた人たちの率直な想いをうかがうことの重要性を感じつつ、ニセコ町での生活を静かに愛おしむ久保さんに温かさを感じた取材だった。

プロフィール

Photo:牧 寛之

久保農園

久保 登士明

ニセコ生まれニセコ育ち。福井地区で農業を営む農家。ニセコ町の観光協会での仕事の経験を経て、実家の農業を引き継いだ。主に米や大豆、小麦の生産を行っている。合鴨農法を利用した米の生産など様々な取り組みを行いながら、ニセコ町での田舎暮らしを穏やかに楽しんでいる。

文責:佐々木 綾香

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