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INTERVIEWインタビュー

土地と技術と思いを農業で継ぐ

2021.06.29

農家 |

中村 大佑

取材日:2021.01.30

Photo:佐々木 綾香

ニセコ町地域おこし協力隊を2021年3月に卒業された中村大佑(なかむら だいすけ)さん。中村さんは同年4月にニセコ町内で就農した。

北海道の石狩市出身の中村さん。大学まで実家の石狩市で過ごし、就職で半導体関係の仕事に就くために神奈川に移り住んだ。その後、趣味の海外旅行で多くの国々を訪れた。その中でも刺激を受けたのはミャンマーだった。町自体に活気があり、人々の目に生気を感じた。成熟した国には感じられない活力を感じた。日本における高度経済成長やバブルはこういう感じなのだろうと思った。

多くの国々を訪れる中で、中村さんが気づいたことが一つある。それは「日本食が無性に食べたくなる」ということだった。日本を離れることで気付かされた日本食の価値。海外での生活も興味があったが、日本食に導かれるように「暮らすのは日本だな」と思い帰国した。

日本の食を支えるってすごくカッコイイ

日本で暮らすにあたって、「日本食を支える」仕事への転職を考えた。ただし、具体的に何をしたいのかはよく分からなかった。そこでまずは何をするのかよりも、どこで暮らすかを考えた。暮らす場所を探すため、アテもなく石狩から福岡までヒッチハイクをして旅した。日本の気になる場所を巡っていった。そのとき印象に残ったのは羊蹄山のあるニセコの景色だった。そこで自分は何をしたいか、何ができるのか。考えた末の答えが、日本の食を支える農業だった。

就農までの道のり

「ニセコで農業をやろう!」という決意のままにニセコ町役場に行った。そこで現実を知る。

「農業をやるためには技術とお金と土地が必要」

誰でも農家になれるわけではない。

様々なハードルを知った中村さんは隣の真狩村の大農家に1年住み込みで農業修行を行った。何十町歩もある大農家でジャガイモ、ニンジン、ユリネ、ブロッコリーなどの栽培を働きながら学んだ。その上で、ニセコ町の地域おこし協力隊に入り、就農希望として農政課に配属された。

協力隊という仕組みが与えてくれた出会い

協力隊に入ってはじめは畜産・林務系の手伝いをしていたという。乳牛の管理の手伝い、林業の手伝いなど行った。その後、就農を念頭においてニセコの農家さんの手伝いをはじめた。馬鈴薯(ばれいしょ)の種芋の芋切りや、トマトやブロッコリーの収穫の手伝いなど、幅広い農作業に従事した。その中で中村さんは情報収集を欠かさなかった。どういう肥料を使っているのか、種を撒くタイミング、機械の使い方、ハウスはどうなっているのかなど、気になることを徹底的に聞いて回った。ニセコの農家さんはみんな優しく丁寧に教えてくれた。「町内中に農業の師匠をつくった感じ」と笑いながら中村さんはいう。100軒以上あるニセコの農家さんの約半数の手伝いを行い、師匠をつくった。普通に就農を目指すと、1軒の農家で2年修行をして、そこから新規就農者として地域に入っていくケースが多いが、協力隊というカタチで入れたことで沢山の師匠を作れたことは、中村さんにとってありがたいことだった。

ご縁が与えてくれた出会い

沢山の師匠をつくっていく中で、偶然のご縁で畑を譲り受けることができた。若い雄牛を預かる町営牧場の手伝いをしていた時のことだ。たまたま居合わせたニセコの農家の遠藤さんに、就農を目指していることを話した。すると、「ビニールハウスを撤去したら、そこの畑を任せてやる」と申し出てくれたという。このご縁がきっかけで、遠藤さんの畑で就農することになった。農業機械も貸してくれることになった。ただ、これは一朝一夕の出来事ではない。農家さんとのコミュニケーションを地道に行い、真摯に農作業する姿勢が遠藤さんに伝わったからこそ、気持ちを動かすことができたのだろう。信頼関係がなければ、いくら遊休予定の農地であっても、他人に貸すことはしない。

目標は師匠のトマトに追いつくこと

来年から借りる畑は約2町歩でハウスを5棟建てて農業を行っていく。主にミニトマトやオクラ、葉物をつくる予定だ。特にニセコにきて食べたミニトマトの味に感動した。この美味しいミニトマトを自分でも作れるようになることが大きな目標だ。

ニセコで人気の農産物の直売所「ニセコビュープラザ」。この直売所にも出店している中村さん。「よく聞く話ですけど、お客さんが美味しいって言ってくれると本当に嬉しい」と語る。お客さんの言葉で「もっと美味いものを作りたい」とモチベーションが湧く。

さらに、直売所の自身のコーナーに置く品目に、ストーリーを持たせたいと考えている。ミニトマトやオクラ、葉物野菜、さつまいも、スイートコーン、ニンニク、アスパラなど6~7品目を出品する。お客さんが中村さんの農産物を見てどういう想いで手に取るか。どんな農家だと思ってもらうか。そのストーリーを考えて、コーナーを飾る。

農業は年1回しか試行錯誤ができない。だからこそ、経験豊富な師匠と新規就農者には大きな差がある。しかし、追いつけないわけではない。現段階では農業技術では師匠たちには敵わない。それでもお客さんの「美味しい」と喜ぶ顔を思い浮かべて、真摯に教えを請う姿勢を貫き、知恵を振り絞って中村さんは師匠を追いかけていく。

プロフィール

Photo:佐々木 綾香

農家

中村 大佑

北海道石狩市出身。大学卒業までを北海道で過ごす。神奈川県の半導体メーカーに就職。退職後、3年ほど海外を転々とし帰国。ニセコの自然に惹かれニセコ町に移住し、同町地域おこし協力隊として活動。2021年度より新規就農した。

文責:牧 寛之

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