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INTERVIEWインタビュー

急がない林業

2020.11.02

合同会社Hikobayu Director |

澤田健人

取材日:2020.11.02

Photo:YUKI SHIGENO

澤田さんはニセコ町の地域協力隊のメンバーとして2015年にこの地にやってきました。もともとヘアーアーティストとして東京、そしてその後カナダへ、美容の仕事に邁進していたそうです。しかし2011年の東北大震災で青森出身の澤田さんは、その震災で何もできない自分にいらだちを感じ、そして日本に戻ってきたのだそうです。東北大震災のこと郷土のことにも後ろ髪を引かれながら、もっと自然体な生き方をもとめてこのニセコにやってきました。

自伐型林業との出会い

協力隊を卒業する頃、山の魅力に引かれていきます。偶然にも出会った奈良県吉野の林業業者で「自伐型林業」を実践している岡橋清隆さんに出会います。吉野と言えば杉や檜の名品を産出する、林業の聖地としても有名な場所です。吉野の林業は密植林業といって高密度で木を植えることで成長をわざと抑制して目の細かい木をつくるのです。そうした木が成長して大木になるのですが、より良い木を残すために間伐を行います。もちろん間伐材も活用しながら、木を育てていくのです。最低でも檜なら300年、杉であれば100年最終的には1000年を生き抜く大木にまで育てるそうです。成長と共にその周りの木を間伐していくのです。こうして樹齢の長い大きく育った木は高価なものになりますが、一方で運び出すのは大変です。通常山の木は架線を張って、滑車で運び出すのですが吉野の場合ヘリコプターで吊り上げて運んだ時代もありました。そのためヘリコプター林業と呼ばれることもあります。しかし近年木材の価格が下がり、林業の危機が叫ばれてからすでに20年近くが経ちます。そんな時にこの自伐型林業へ挑戦が始まったそうです。自伐型とは山の斜面に2mほどの車一台通れる細い道をはりめぐらし、木を倒せばどこかの道からそれを運び出すことができるのです。こうして道がつくられれば下草を刈り、枝打ちをすることも、また間伐もしやすくなるのです。木は自然の状態では大きくなるのに長い時間かかるので人間が手をいれることが大事なのです。

100年先を見つめる

こうした話を知った澤田さんはこのニセコでこの自伐型林業へ挑戦しようと活動を開始しました。かつて北海道の山々も皆伐といって燃料にするために山々の木々をすべて刈り取り山は丸裸になりました。50前までは盛んだったと聞きます。そんなに昔のことではありません。そのあと生えてきた木々で山は一見美しい風景をつくっているように見えるものの、木はいまだに細く、材木として使えるほどには育っていません。そんな森を見て、澤田さんは「100年先を見据えて大きな木が育つ森をつくっていこう」とここに情熱を注いでいます。初めてから3年、今管理している山は合計3カ所で20haほどです。一度道をつけて整備したところは丁寧な管理が大変しやすくなります。木々をみながら、どの木を切ってどの木を残していくのか、それは木がなりたいような形を見つけ出していくそうです。隣にある競合してしまう木のどちらを育てていくのか、木を見ながら木と対話をするように丁寧に伐採していくのです。それもこうした人の入れる道があるからできること、急がずゆっくり、しかし着実に育てていくのです。

壊れない道をつくる

この自伐型林業の鍵は道です。この作業道を壊れない道としてつくることが大事なのだといいます。土だけの道は容易に壊れやすく、雨や水でかたちもかわってしまいやすいのです。沢をわたるときも多くの土をもったのでは増水した時にこわれてしまいます。地形を見ながら緩い勾配でその山に無理のない道をどう入れていくのかを考えます。彼は笑い話で、ヘアーアーティストとしての経験が生きていると。人の頭の形をみて髪を切るのと山の形をみて木を切って道にするのとどこか共通点があると笑って話してくれました。

さて吉野の林業は針葉樹ですが、ここニセコは広葉樹の森です。自然林ですから水楢、白樺、ミズナラ、イタヤカエデ、マカバ、シラカバ、クルミ、サクラ、ホウ、キハダ、ハリギリ、タモなどの多様な木が生えています。

樹種:左)ホウ 右)ミズナラ (Photo:編集部)

真っ直ぐな木もまがった木もあります。それぞれの木の特性や使い道を考えて育て、そして伐採します。広葉樹は使い方が多様なだけに、先の作業道がとても大切です。一本ずつよく観察できるからです。そして自然林であれば大木になるまで数100年かかる木を、人の手の入ることでより成長を促すことができるのです。しかしそれがどのくらいの時間でできるかはわかりません。澤田さんにとっても壮大な実験なのです。100年以上かかるとすれば、林業だけを生業にするのは大変です。澤田さんは雪の降らない時期の6割ぐらいの時間を山に使い、残りの時間でナラの木の精油をつくることに力を入れています。また時間の空いた時には美容室を借りて髪も切ります。こうして副業を別にもつことで、林業の成果を急がないことができるのです。そして1人でもできるのです。急がない林業はまさに持続可能な生き方とも言えます。いつの日かこの山から大きな木が切り出されることに思いをはせて、山に向きあって生きていく決心に心を打たれました。

Photo:YUKI SHIGENO

※表土と心土、道を作る時は表土をとって脇に寄せていく

プロフィール

Photo:YUKI SHIGENO

合同会社Hikobayu Director

澤田健人

NPO法人自伐型林業推進協会事務局、北海道自伐型林業推進協議会理事
NPO法人森林バンク副代表、
地域林政アドバイザー、厚生省林業就業支援事業北海道ブロックマネージャー

2015年 ニセコ町地域おこし協力隊として移住 地産原料を活用した製品の製造販売を目標に活動を開始しました。現在は熊本大学との共同研究を経て、衝撃波応用技術を導入しエッセンシャルオイル(精油)製造販売、自伐型林業、講師業、美容師など実践しています。

文責:土谷 貞雄

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※植栽は特定の季節の状況を表現したものではなく、竣工時には完成予想図程度には成長しておりません。
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